「部門まるごとハンティング」への対策は?
【Question】
最近、「部門全体」をヘッドハンティングするサービスがあり、利用が広がっているとのニュースを耳にしました。従業員個人をヘッドハンティングされる場合も影響はありますが、部門がまるごとヘッドハンティングされるとなると事業に致命的なダメージが及びかねません。こうしたサービスはそもそも合法なのでしょうか? また、このような動きに対応する為に何か対策を講じておくことはできるのでしょうか?
主に経営幹部や管理職クラスの従業員を対象としたヘッドハンティングは一般的に利用されるようになってきました。多額の教育投資を行って育ててきた人材を取られてしまう企業側からすれば感情的には「裏切るなんて許せない」という思いもあるかもしれませんが、従業員側には「職業選択の自由」があり、また、うまく行かないかもしれないリスクを負ってまで転職をすることになりますので、退職金の金額に差異をつける程度は出来たとしても、個人レベルのヘッドハンティングを完全に防ぐことは困難です。
しかし、これが「部門全体のヘッドハンティング」となると話は変わってきます。最近のヘッドハンティングの場面においては、部門を統括する幹部従業員だけではなく、その部下である一般従業員も含めてハンティングし、最悪の場合には部門の全員がいなくなってしまうというようなやり方が用いられることがあります。その手口は巧妙で、一般従業員については退職時期をずらしたり、退職理由をそれぞれ異なるものにしたりと、「発覚しにくい工作」を含めた対応が行われています。
本来であればある企業の特定部門を手に入れたいと思うときには「事業譲渡」を受けられないかどうか交渉を行うことになります。しかし、買い手企業にとっては思い通りの部門を手に入れることはなかなか難しく、また、買い取りを図る部門に内在するリスクを見出すためのデューデリジェンスや契約交渉の手続きなど、直接的な投資以外にも多額のコストがかかります。このため、研究開発部門や営業・サービス部門等の「属人的」な要素が強い部門においては、「その部門で働く人」のみを手に入れてしまった方が安価で効率よく、しかも面倒な企業間交渉抜きで目的の「部門」を手に入れることが出来てしまうのです。
では、ご質問について回答いたします。
まず「このようなサービスが合法かどうか」については議論の分かれるところです。従業員には憲法上保証された「職業選択の自由」がありこれから派生する「退職の自由」がありますので、退職理由によって個々の従業員の退職を認めないということは難しいでしょう。しかし、部門丸ごとハンティングの場合には、ハンティング会社や実質的な取りまとめ役となる部門長などが「そそのかして」退職させることになりますので、彼らに対しては「会社に損害を与える行動を行った」として責任を問うことが出来る余地は残されていると考えられます。刑事的には「背任」の可能性が残されていますし、民事的には「不法行為責任」を追及する形になるかと思われます。同様に、移籍先企業に対しても民事的な責任を求めることが出来る余地はあるかと思われますが、いずれにせよ「裁判をしてみないと分からない」というのが現状かと思われます。したがって、いわゆる「グレーゾーン」として考えるのが妥当かと思われます。
また、このような部門丸ごとハンティングに対する防護策としては、退職後における「秘密保持」と「競業避止」の徹底があげられます。就業規則や退職時の誓約書などにおいて、在職中に知った秘密の保持を確認させ、一定の範囲での競業避止義務を課すことは可能です。特に部門丸ごとハンティングにおいては「退職後早いタイミングでの移籍」が実現できなければ意味をなさなくなることが多いことから、役職者を中心に1年~3年レベルでの競業避止義務を課して置くこと有効な牽制となると考えれます。この他、退職金の支給を2段階(例えば1ヵ月後と6ヵ月後の半分ずつ)とする方法なども牽制として有効です。
ただ、これらの方法はいずれも「牽制的手法」であり直接的な防止策とはなりません。経営者としては、部門丸ごとハンティングの兆しが見えた場合には早期に情報収集を行い、リーダーとなる者にけん制を掛ながら他の従業員に波及しないよう手を打っていくことが求められます。