Awing労働トラブル予防相談所
経営者・人事労務担当者向けの労働トラブル予防・解決事例集。
過去の判例や事例から、経営者と従業員との間で起こる解雇・未払賃金・残業・過重労働・派遣・請負など様々な労働トラブルを未然に防ぎ、また、解決の道筋を探ります。

勤務成績の悪い社員を辞めさせたいが・・・・

【Question】

当社では30名ほどの従業員が勤務しておりますが、幹部従業員(課長級:40代)の中に残念ながら期待する成果を発揮してもらえない方がおります。会社としてはこれまで再三再四にわたって教育指導を行ってきたつもりですが、芳しい結果は得られておらず、本人自身も仕事に対する熱意をもてないようです。

縁故入社ということもあってこれまでは見て見ぬ振りという状況も続いておりましたが、現在では他の従業員のモチベーションにも影響が出始めており、経営者側としてはこのまま状況を放置出来ないと感じております。このため、経営環境も大変厳しく人件費にも余裕が無い状況であるため、可能であれば辞めていただきたいと思っているのですが、何とか円満に進めるための方法は無いでしょうか?

当事務所に寄せられる相談の中には、解雇・退職に繋がる話も多いのですが、毎回大変頭を悩ませながらの回答を考えております。今回のご相談では、会社の経営状況や本人の勤務態度・成績、また、職場環境などを考慮すると、当該従業員には当社での職を離れていただくこともやむを得ないと判断できる状況でありました。

しかし、残念ながら、ご相談のような状況下では「解雇」という選択肢を選ぶことは困難であると考えざるを得ません。労働法の考え方では「解雇は、客観的に合理性を欠き、社会通念上相当であると認められない場合には、権利を濫用したものとして無効とする。(解雇権濫用の法理:労働基準法第18条、労働契約法第16条)」という確立した法理があり、今回のケースでは客観的合理性について争いになる可能性が高いと考えられるためです。

この会社の就業規則を確認したところ、解雇(いわゆる普通解雇)の条件として「勤務成績が著しく不良であり、尚改悛の情が認められないこと」とありました。会社から見れば、再三にわたる教育指導の結果も改まらない状況下では、この条項を適用して当該従業員を解雇したいところなのです。しかし、「成績が著しく不良」や「改悛の情が認められない」ということを客観的に証明することはそもそも難しく、従業員側が納得しなければ間違いなくこの点を「争点」として訴えてくることになります。このように、勤務成績や勤務態度の不良とした「解雇」は不可能とは言わないまでも、一般的に「争いの種」を抱えることになります

しかしながら、経営側としては「それでも、できれば辞めて頂きたい」と考えるのが人情。そこで必要となるのが、「解雇」という選択肢を取らずにやめていただく方法である「勧奨退職」です。

労働者の意向とは無関係に、会社側の一方的意思表示による雇用契約の解除」である解雇は、労働者保護の視点から法理上厳しく制限が加えられています。これに対して勧奨退職は「会社側からの退職の申込み(退職勧奨)を行い、労働者側がこれに応じたことによる雇用契約の解除」ということになります。この場合は、合意退職の一形態となりますので、解雇権濫用の法理の適用は受けず、任意に雇用契約の解除が可能となります。

ただし、勧奨退職の場合にはあくまでも「労働者側からの合意」が必要となりますので、対象従業員に対しては十分な説明と同意が必要となります。とはいえ、職という「生活基盤」を失う従業員にとって簡単に同意できる話しではありません。このため、当該従業員との面談折衝においては
○現在の勤務内容がこのまま続けば、従業員が思い描いているような処遇は困難であること。(昇給・昇格などはもちろん、降給・降格もありうることも視野に入れさせる)
○今の自社の状況の中では、これ以上当該従業員に能力を発揮してもらう場を用意することは難しいということ。(既に可能な限りの手は尽くした)
といった現状をしっかり見据えさせつつ、将来の生活に対する不安を取り除くために
○当面の生活に支障がないような可能な限りのサポートを行う(退職金の割増しや雇用保険手続きへの支援の実施)
○今のうちであれば、会社としても別の道へリスタートをするサポートが出来ること(再就職支援やアウトプレースメントを手配も考えられる)
といった退職に当たっての条件提示を行うことも大きなポイントとなります。もちろん、面談折衝の際には「退職を強要された」との誤解を招かないような誠実な対応を心がけることは重要です。

さらに、退職に向けて合意できる場合には「退職に当たっての合意確認書(覚書)」を用意することが望ましいでしょう。過去の事例をみると「経歴に傷がつく」等の理由から退職届を提出させて自己都合退職扱いとするケースが多くみられましたが、この方法では紛争防止という観点から言えば「退職強要」という争いの種を完全に払拭することは出来ず、訴えを起こさせられるリスクは少なからずあります。これを出来るだけ避けるために、退職届とは全く異なる「合意確認書」という形で、退職に向けての双方の合意内容を書面化しておくことが望ましいと考えられます。

「退職に当たっての合意確認書(覚書)」は任意の契約となりますので、法律上記載すべき内容が決めれているものではありません。しかし、後々の紛争を予防する観点からは、少なくとも下記の事項については取り決めを行っておくのがよいでしょう。

【退職に当たっての合意確認書に記載すべき事項】

  • 会社から退職を勧奨し、労働者がこれに応じたという旨
    (申込みと承諾を明確化します)
  • 退職の日
    退職までの期間の勤務の取扱いについて
    (通常の勤務に服しつつ、再就職活動を認めるなどの配慮を行う場合には明確化します。)
  • 退職金の支給について
    (支給額や割増額だけではなく、支給時期や支給方法も明確化します)
  • 雇用保険被保険者離職証明書に記載する離職事由
    (具体的に特定しておきます。)
  • 資産の返却、秘密保持、競業避止義務など
    (退職に当たって改めて確認しておきます。)
  • 合意管轄裁判所
    (万一の紛争に備え、会社の所在地のある裁判所を管轄とします)

これらの手当てにより100%紛争の発生を防止できるというわけではありませんが、少なくとも不要なトラブルの芽を摘むことはできます。

いずれにせよ最も大切なことは「従業員に対して退職するほうが将来が開けるという道筋を見せつつ、退職に伴う従業員の将来的な不安を取り除きながら、双方が納得の上で合意する」ということです。会社側としても一方的な思いのみで対応するのではなく、相手方である従業員の立場に配慮した誠実な交渉を進めることが大切です。

立石智工事務所では、解雇・退職に関する事前相談・紛争解決業務に随時対応しております。事前診断や労働紛争解決業務に関するご依頼はこちらまでお気軽にお問合せください。

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