Awing労働トラブル予防相談所
経営者・人事労務担当者向けの労働トラブル予防・解決事例集。
過去の判例や事例から、経営者と従業員との間で起こる解雇・未払賃金・残業・過重労働・派遣・請負など様々な労働トラブルを未然に防ぎ、また、解決の道筋を探ります。

マクドナルド店長に残業代支払命令

【Question】

 先ごろ東京地裁でマクドナルドの店長に対して残業代支払を命じる判決が出たと報じられました。判決によると今回のケースでは店長は「管理職」には当たらないとのことですが、具体的にどのような形で認定が行われたのでしょうか?また、この判決で労働実務上に影響が出るのでしょうか?

平成20年1月28日、東京地裁にて「マクドナルド賃金訴訟」の判決が行われました。この訴訟では、日本マクドナルドに店長として勤務する従業員が、「自分は管理職には当たらないにもかかわらず、管理職として扱われたため、本来得られるはずの残業代を受け取ることが出来なかった」として、未払いの残業代を求め日本マクドナルドを訴えていたものです。

一般に「残業代」等と呼ばれている時間外賃金については、労働基準法において日8時間又は週40時間を超える労働を従業員にさせた場合に一定の割合(現行法では2割5分以上)を乗じた割増賃金を支払わなければならないと定められています。(なお、休日に労働させた場合には3割5分以上の割増となります。)ただし、「監督若しくは管理の地位にある者(以下、管理監督者)」については、労働基準法の労働時間、休憩及び休日に関する規定を適用しないこととされており、時間外賃金の支払を行わなくても良いとされています。

しかし、法的拘束力を有する労働基準法や政令・施行規則等には「監督若しくは管理の地位にある者」についての定義が明確になっているわけではありません。従って、過去にもサービス残業や過労死等の問題とあいまって、企業内での役職が管理監督者に当たるかどうかを巡っての紛争が数多く発生しています。

このように法的な定義が十分に明確になっているとはいえない「管理監督者」ですが、厚生労働省は行政通達として「監督又は管理の地位にあるものの範囲」について「一般的には、部長、工場長等労働条件の決定その他労務管理について経営者と一体的な立場にある者の意であり、名称にとらわれず、実態に即して判断すべきものである。(昭63.3.14基発150号)」として、限定的な解釈を示しています。この通達は必ずしも法的拘束力を有するものではなく、また、学説の中では反対意見もありますが、最近の裁判所の判断ではこの通達の内容を踏襲するものが多く見られます。(先日行われた労働審判においても、紳士服小売大手のコナカが元店長に同様の判断にて未払い賃金を支払っています。)

今回の判決においても、裁判所は「マクドナルドの店長は管理監督者に当たるとはいえない」としました。現時点で判決文が入手出来てはおりませんが、新聞や各メディアで報じられている内容を総合すると、「パート・アルバイトの採用権はあるが、店長の権限は店舗内の業務に限られること」「店長自身の勤務時間に裁量が認められないこと」「他の従業員と比較にして管理監督者というには待遇が十分ではないこと」等の理由から「管理監督職に当たらない」との判断を行った模様です。(但し、マクドナルド側は控訴を行っていますので、裁判所の判断が変わる可能性は残っております。)

次に、この判決が労働実務に及ぼす影響について考えてみたいと思います

報道等ではセンセーショナルに取り上げられている「マクドナルド判決」ですが、個人的には労務実務対する影響は「限定的」であると考えています。詳細の分析は判決全文を確認してからになりますが、現時点での報道ベースの話を総合すると、今回の判決では裁判所の判断基準に大きな追加や変更が有ったものではなく、あくまでも厚生労働省通達や先の判例の枠組みを踏襲したものに過ぎません。したがってその意味においては、あくまでも「予想の範囲内」の判決であったといえます。

とはいえ、この判決が大きく報じられたことにより、労働紛争の場において会社が管理監督者とする役職者についても「自分の管理職に当たるか否か」という点を争点とするケースはこれまで以上に増加することでしょう。このような労働紛争を未然に防止し、また万が一紛争となってしまった場合にも一定の対応ができるよう、十分な対策を講じる必要があると考えられます。

それでは、管理監督者の取り扱いについて具体的にはどのような対策を講じれば良いのでしょうか?これは、過去の紛争・裁判事例の「契機」にヒントが隠されています。

 「管理監督者か否か」を巡る紛争・裁判例を紐解いていくと、その底辺には「一生懸命働いているのに、十分な待遇が得られていない」という不満が底辺に渦巻いています。今回のケースでも、時間外賃金が支払われない店長職よりも、時間外賃金がある非管理職従業員の方が高い賃金を得られているという状況が背景にあったとのことです。(ただし、同種の職にあったかどうかは不明です)。このような「職位による賃金の逆転現象」は、社内でのモラールダウンを引き起こし、労働紛争を引き起こすきっかけとなります。

つまるところ「勤務時間等を含めた職務内容に見合った賃金が支払われている=働いた分だけはもらえている」 という状況であれば、紛争は起こりにくいといえます。もちろん、企業規模や経営状況などを考えると世間相場などとの比較は困難かもしれません。しかし、最低限「社内の職位別賃金水準が適正なつながりとなっている(上位職者は下位職者より賃金が得られている)」点については確保が必要となります。

また、管理監督者に対して支払われる賃金内容についても見直しが必要です。管理監督者に対しては役職手当等の名目で一定の手当てを支払っている企業も多く見られますが、これらの手当ての位置づけが明確になっていないケースが多く見られます。このような状況のままでは、いざ紛争となった場合において裁判所が「役職手当は本給に含まれるべきもの=時間外割増の対象」と判断する可能性が大きいといえます。本来の役職手当とは「役職に応じた職務内容を果たすことを期待して支払う賃金」ですので、管理監督者に対する役職手当には想定される範囲での時間外賃金相当額(≒非管理職の上位者に支払っている時間外賃金相当額)+αの水準とした上で、役職手当の性格を明文化して筋道を立てておくことが望ましいと考えられます。

今回の事例はマクドナルドと言う飲食店の店長職にある者の紛争ですが、一般企業においても同様の問題が生じる可能性は十分にあります。特に、課長職・課長代理職については「管理監督者」に該当するかどうか疑義を生じる可能性が高く、紛争を未然に予防するためには、しっかりとした対策を講じておく必要があるといえます。この裁判を契機に、自社における管理監督者の取り扱いについて見直しをされることが望ましいと考えます。

立石智工事務所では、企業における労働トラブルに関する予防診断・紛争解決業務に随時対応しております。予防診断や労働トラブル対応に関するご依頼はこちらまでお気軽にお問合せください。

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