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労働紛争の交渉相手は?

企業側サイドで考えた場合、労働紛争の「相手方」となるのは労働者本人だけとは限りません。状況によっては様々な相手方との交渉を行っていかなければならないことに注意を払う必要があります。

労働者本人・代理人

労働紛争では、当然ながら直接の相手方となるのは「労働者本人」に他なりません。ただし、このときに相手方となる労働者本人が「現に雇用関係にある者」とは限らないことに注意しなければなりません。例えば解雇・退職の問題でいえば、「元従業員=過去に雇用関係にあったもの」になりますし、採用関係のトラブルになれば「求人募集への応募者」が相手方の労働者本人となります。当初の段階ではできるだけ本人と直接話し合いの場を持ち、相手の言い分を良く聞いたうえで、非を認めるべきところは認めつつ不当な要求には屈しないという冷静な対応が求められます。

また、労働者本人ではなく、親(未成年者の場合)や弁護士等の代理人が本人に代わって交渉相手となる場合が有ります。この場合には、まず最初の段階で「代理人としての適切な権限を有している」という点を確認することが必要です。また、相手方が弁護士等を立てた場合には、直接本人に対して交渉を行う「頭越し交渉」を避けることがトラブルの拡大を防ぐ一つの方策となります。

なお、代理人であっても「賃金(給料・賞与・退職金等)」の名目の金銭を本人に代わって受け取ることは出来ないなど、代理権の行使には一定の制限がありますので注意が必要です。

労働基準監督署等の行政機関

労働者は、労基法その他の労働法違反の事実がある場合には、労働基準監督署等の行政機関にその旨を申告する権利を有しています。労基署などがこれらの労働者からの申告を受けた場合、法令遵守の状況や労働条件や労働環境の整備状況などについて監査が行われます(一般に「申告監査」と呼ばれています)。申告監査は事前に予告がある場合のほか、抜き打ちで行われる場合もあります。

申告監査が行われ、法令に違反している箇所が発見された場合には「是正勧告書」の交付が行われ、一定期限までの間に是正を行うことが必要となります。しかし、時には事実と相違する等会社にとっては受け入れられない是正勧告の内容である場合もあります。特に申告監査の場合には、労働者側の言い分について相当程度斟酌されることが多いため、監査には協力をしつつ、会社の実態について十分に理解が得られるよう慎重かつ冷静な対応が必要となります。

個別労働紛争解決手続機関(紛争調整委員会など)

労働紛争の解決について、労使間の直接の話し合いでまとまらない場合には、法律に基づく組織として、個別の労働紛争について中立的な立場から解決を図る「個別労働紛争解決機関」を利用するケースがあります。代表的な機関としては各都道府県労働局に設置されている「紛争調整委員会」や、各都道府県の「労働委員会」等があり、現在では「法テラス」のようなADR機関と呼ばれる民間の機関もあります。これらの紛争解決機関は、第三者の立場から当事者双方の間に入って、双方が納得のいく解決策を模索し、和解に向けた「あっせん」を実施します。

これらの個別労働紛争解決機関は制度上「一方当事者からの申立て」によって利用することが出来ます。多くの場合には労働者側から申し立てが行われ、ある日会社に「呼び出し状(あっせんの期日の通知)」が送られるという流れとなります。会社側は必ずしもあっせんに応じる義務はありませんが、ある程度解決への方向性の目途が付いており、早期解決を図りたいということであれば応じることも一つの方策でしょう。

また、相手方が理不尽な要求を行って正常な交渉が期待できない場合等には、会社側からあっせんを申し出ることも可能です。相手方の機先を制すると共に、たとえあっせんに応じなかったとしても、その後の交渉において有利な立場を築くことも可能となります。

なお、これらのあっせんの手続きについては、弁護士のほか、社会保険労務士法によ特定社会保険労務士のみが代理人として手続きを行うことが可能です。(特定社会保険労務士になるためには、社会保険労務士としての登録後に、特別の研修を受講し、かつ、認定試験に合格する必要があります。)

個別労働紛争解決機関の場に発展してしまった労働紛争は、当事者間の自助努力だけでは解決が困難であるケースがほとんどです。もし、個別労働紛争解決機関からの呼び出しを受けた場合には、早急に特定社会保険労務士にご相談頂き、日常的な労務実務と労働紛争解決のための専門的な知識を兼ね備えた「労働紛争解決のプロフェッショナル」の支援の下で早期解決を図ることが有効です。

労働組合・ユニオン

労働紛争は「労働者個人と会社間における個別の紛争」ということが原則となりますが、時には、労働者の集団である労働組合が関わってくるケースがあります。労働組合には、憲法や労働組合法により「団体交渉権」が保障されており、正当な理由無く会社側が団体交渉を拒否することは「不当労働行為」として禁止されています。このため、労働組合が「組合員の地位の安定・確保・向上」を理由に団体交渉を申し入れてきた場合には、原則として誠実に交渉を行っていかなければなりません。

ここで問題になるのが「合同労組(いわゆるユニオン)」への対応です。日本では企業別組合が一般的ですが、これらとは一線を画して独立した労働組合活動を行っているのが「合同労組」です。合同労組は、一般的には労働者であれば誰でも自由に入会することが可能であり、従業員と会社がトラブルになった際に、たとえ一人しか加入しない場合であっても、労働組合として「団体交渉」を初めとした様々な要求を行ってきます。

労働組合法上の労働組合の要件を満たしていれば、合同労組も労働組合としての権利を有する組織になりますので、団体交渉の要求があった場合には誠実に応じることが必要となります。しかし、団体交渉に応じるとしても、その日時や場所、時間、出席者、議案などの全てに応じる必要はありません。無用な先延ばしにならない程度の範囲内で、会社側からの希望を申し入れることが必要です。

繰り返しになりますが、例え合同労組であったとしても、団体交渉の申し入れがあった場合に、これを拒否することは「不当労働行為」に該当する可能性が高く、拒否したことによってかえってトラブルを長引かせる要因となります。合同労組から団体交渉の冷静に交渉のテーブルに付いた上で、焦らずじっくりと会社側の主張を粛々と述べるところから対応をはじめるのが基本となります。 

なお、社会保険労務士法の改正により「労働争議不介入の原則」が撤廃され、社会保険労務士が会社側の参与・顧問として団体交渉の場に同席したり、依頼者である会社側に対して助言・支援を行うことが出来るようになりました。社会保険労務士が単独で交渉を代理することは出来ませんが、社会保険労務士が対策の検討や意思決定等に向けた参与することで、会社側として毅然とした対応を取るための有力な戦力として活用いただけます。

また、複数回に渡って団体交渉を行っても、意見の隔たりが大きく差が埋まらないと判断される場合には、労働組合等を管轄する「都道府県労働委員会」に対してあっせんの申し入れを行うことが出来ます。個別紛争解決機関と同様、都道府県労働委員会へのあっせんについても会社側からの申入れが可能ですので、早期解決・現状打開のための一つのオプションとして有効に活用することが出来ます。

 

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